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Updated 2003-2-10
表現のバリエーション、変化と統一

2002年12月21日 JAT 月例ミーティング

by 富井篤

内容

「表現のバリエーション」は、私の35年来のテーマです。これは、隣接したところでは、一度使った「語」や「句」や「表現」の繰り返しを避け、言葉のニュアンスや語感が少々違っていても、また場合によっては意味や用法が若干おかしくとも、表現にバラエティーを富ませることにより、文章にエレガントさを漂わさせ、文章の格調を高めようとするテクニックです。これは、法隆寺の五重塔や金堂などの飛鳥時代の古建築に見られるテクニックと相通ずるものがあります。ただ、これは、人それぞれの感性によっても違ってくるもので、ある人には言葉を変えたことによりエレガントに映っても、他の人にとっては「不統一」のほかの何物でもないととられてしまうこともあります。さらにまた、そのようなバリエーションを全く許容しないジャンルの文献が存在するということも事実です。

また、「表現のバリエーション」、すなわち「表現の変化」を考えるときに忘れてはならないものに、「表現の変化」とは裏表の関係にある、「表現の統一」があります。ひとたび良い言葉(一部の普通名詞を含む「用語」類)を選んだら、初めから終わりまで徹頭徹尾、同じ言葉を繰り返さなければならない、それが「表現の統一」です。そして、この「変化と統一」というテーマは、日本語にも英語にも共通している問題です。

そこで私は、収集したたくさんの例文を「変化させたほうが良い」という考えと「絶対に統一しなければならない」という考えを両極端に据え、つぎの四つのシチュエーションに分類してみました。

  1. 変化させたほうが良い 
  2. 変化させてもさせなくともどちらでもよい
  3. 統一したほうが良い
  4. 絶対に統一しなければならない

このセッションでは、このテーマをつぎの三つのセクションに分けてお話します。

  1. 変化と統一とは
    英語および日本語の例を多数引用しながら、「変化」と「統一」の概説を行います。また、「変化」を嫌うRobert Barrass氏の一節を、彼の著書"Technical Writing"から引用して紹介します。
  2. 実例の紹介
    過去35年かけて収集した数多くの英語の例文の中から60近い例文を選び、私の感性に基づいて上記(1)から(4)に分類したものを紹介します。そして、出席者、特にネイティブの出席者、にご参加いただき、この(1)から(4)までの分類の適否を評価していただきます。
  3. 過去の調査結果報告
    10年ほど前、JATのMonthly Meetingで同じプレゼンテーションを行いましたが、その時に行った意識調査や、1988年の ATA Seattle Conventionおよび1995年の ATA Nashville Conventionで行った同じ調査の結果をご報告したいと思っています。

講演者略歴:
1934年、横須賀に生まれる。スイス系の商社、アメリカ系の産業機械メーカーなどを転職後、1974年、脱サラし(株)国際テクリンガ研究所を設立。翻訳、語学研究・教育・指導に専心。かたわら、35年ほど前から収集してきた300,000点の英文資料を元に、科学技術和英大辞典、科学技術英和大辞典、科学技術英語表現辞典を初めとして、各種技術翻訳関連の辞書、参考書、ハンドブックなどあわせて22冊を執筆・出版してきた。2000年秋には科学技術和英大辞典のCD-ROM版を、そして2002年1月には丸善から科学技術日英・英日コーパス辞典のCD-ROM版を発行した。1985年10月、JAT入会。

講演の状況

きっかり定刻2時に開始。
表現のバリエーションにつき概説した後、第I部と第II部に分けて、プレゼンテーションを行った。

第I部は、日本語と英語それぞれにおける「変化」と「統一」の解説。

日本語の「変化」については、古くは高山樗牛の「滝口入道」、谷崎潤一郎の「盲目物語」、さらには「ハムレット」の邦訳版など文学関係から引用し、新しくは拉致被害者の家族の談話や12月14日、小泉首相の横須賀での記者会見の内容などから引用し、「そもそも変化とは?」について詳しく説明。

英語については「変化」と「統一」を重点に、ATAの Seattle ConventionやNashville Conventionで使った例文に新しい例文も加え、約60例文を俎上に乗せて解説。

講演の進め方は、当然のことながら「変化」と「統一」の解説を縦軸(第1モチーフ)とし、さらに、第1モチーフとして引用した例文について技術翻訳の立場から加えていかなければならない種々の説明を横軸(第2モチーフ)として、なるべく二次元的な広がりをもつ内容になるよう心がけた。

第II部は、過去にJATやATAなどいろいろな会議で調査した結果報告を、その折寄せられたコメントも紹介しながらご披露。

コメントの中には、DMとかDifferent meaningとして「これは語句や表現の変化ではなく、意味が違うのだ」ということを指摘しているものが多かったが、これは、語句や表現の変化を「出口側」から見た上での指摘であって、「入口側」から見ると、やはりこれはエレガントな(?)バリエーションというべきものであるというスタンスで捕らえた。

とはいえ、結論としては、表現のバリエーションというものは、あくまでも個人個人の感性ないしはスタイルの好みの問題であり、バラエティーを富ましたことが良かったか悪かったかの評価を客観的にくだすのは不可能なことであるといわざるをえない。

なにぶんにも、3時間という短い時間であったので、第I部の第2モチーフが、準備したうちの3割も紹介できず残念であった。できることならば、生きているうちに、とはいわないまでも、JATを退会する前に、歌舞伎の「忠臣蔵」ではないが、5時間ぶっ通しで「興行?」できたならばなァと思っている。そのときは、落語の「大家の義太夫」ではないが、うまい煮しめととびっきり上等なお酒を振舞わない限り、誰も来てくれないことは承知のうえで。

質疑応答も定刻5時に終わり、冷たい雨の中、二次会に繰り出した。