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(A different version of this article appeared first in the Spring 2003 issue of JLD Times.)
日本で教育を受けた方でも「統計学」をきちんと勉強された方は案外少ないのではないだろうか?私が高校時代で使用した数学IIIの教科書には「確率および統計」という単元があったが,大学入試にはあまり出ないという理由で学習しなかった。大学から専攻した物理学には「統計物理学」という分野があるが,力学と確率基礎論にもとづく理論で,いわゆる統計的手法を適用するものではない。
翻訳に従事してからいろいろな学問や産業分野に接することになり,統計学が離れなくなってしまった。昨年秋まで3年間にわたり,数社から品質管理の統計学の翻訳を引き受け,英日翻訳に役立つリソースが少ないことを実感した。仕事が一通り完了したので,ここで培った経験をJLD会員と共有し,統計学に関する翻訳の品質向上に役立てればと思う次第である。
1. 統計学とは
統計学は数学の一分野であり,医学,薬学,経営工学 (Industrial Engineering),自然科学など様々な学問で利用されている。この理由から米国の大学では統計学を必須科目と指定しているところも少なくない。
統計学とは,限られた実験データから一般的結論を推定するために使われる。たとえば,世界中の人の身長や体重をすべて測定して平均値を求めることは不可能に近いので,一部だけを測定して平均値を推定することになる。ここで重要なことは,その推定値が本当の値にどの程度近いのかである。もちろん,本当の値はわかっていないことが多いので,確率的なことしか言えない。また,臨床研究 (Clinical Study) では,医療方法や薬の効果を決定するために統計手法が適用される。このように,統計手法はその結果の解釈が重要であり,時には誤った結論を導くことがある。翻訳者にしても原文の意味を理解し,誤訳のないように努めなければならないことは明らかであろう。
日本語の統計学用語は,他の学問と同様に分野ごとで異なることがある。まったく翻訳者泣かせである。また,英語で一見用語ではないような単語や表現が統計学の専門用語であったりする。このため,統計に関する文献の翻訳では常に注意を払うことが大切である。このでは,医学と品質管理で使われている統計用語や表現で特に要注意であるものを取り上げて説明する。
2. 翻訳のためのリソース
最近はインターネットで検索できるリソースも多くはなったが,残念なことに統計用語はまだ少ない。私が知る限りではf翻訳サイトに出てくる 統計用語リストが最多数であるように思う。
市販されている辞書も少なく,私が所持しているものは「生産工学用語辞典」(並木/遠藤,日刊工業新聞社) だけである。ただし,統計に関する書籍は多数市販されている。
一般書では下のものを参照している。
「品質管理の知識」(佐々木,日経文庫)
「TQCの知識」(森,日本経済新聞社)
「おはなし品質工学」(矢野,日本企画協会)
「図解でわかる多変量解析」(涌井/涌井,日本実業出版社)
「医薬研究者のための統計記述の英文表現」(奥田,金芳堂)
大学教科書では下のものを所持している。
「生産管理」(村松,朝倉書店)
「統計学講義」(林,丸善)
「統計理論入門」(ホーエル・ポール・ストーン,東京図書)
「確率・統計入門」(小針,岩波書店)
「確率・統計入門」(グムールマン,東京図書)
「統計学講義」は翻訳にも役立っている。
3. 紛らわしい統計用語
このような情況から,統計用語集の作成を余儀なくされた。このなかから一見平易な英単語でありながら,統計用語として定着している日本語が原文とかなり異なるものがある。その一部を紹介しよう。
| Mode | 最頻値,モード | |
| Maximum Likelihood | 最大尤(ゆう)度 | |
| Least Square Method | 最少二乗法 | |
| Median | 中央値,メジアン | |
| Correlation | 相関 NOTE: Partial Correlation 偏 (部分) 相関 | |
| Sample | n: 標本 / v: 抽出,抜き取る | |
| Quasi-random Sampling | 準無作為抽出 | |
| Stratified Randomization | 層別無作為化 | |
| Normal | 正規 | |
| Significance | 有意性 | |
| Frequency | 度数,頻度 | |
| Analysis | 解析,分析 | |
| Variation | バラツキ,変動 _ Jitter (cf. ゆらぎ --- fluctuation) | |
| Error | エラー,過誤率,誤差 | |
| Failure | 故障,失敗 | |
| Interaction | 交互作用 | |
| Box plot | 箱ひげ図 | |
| Marginal Plot | 周辺プロット | |
| Scatter Plot | 散布図 | |
| Bin | ビン数 | |
| Population | 母集団 | |
| Design of Experiment | 実験計画 | |
| Confidence Interval | 信頼区間 | |
| Test | 検定 | |
| Power | 検出力 | |
| Paired | 対応のある | |
| One way analysis | 一元分析 | |
| Null hypothesis | 帰無仮説 | |
| Alternative hypothesis | 対立仮説 | |
| Reject | 棄却 | |
| Time series | 時系列 | |
| Association | 結合 | |
| Confounding | 交絡 | |
| Pooled data | 込みにしたデータ | |
| Contingency table | 分割表 | |
| Skewness | 歪度 | |
| Kurtosis | 尖度 | |
| Rank-sum Test | 順位和検定 | |
| One (two)-tailed test | 片側(両側)検定 | |
| Simple (Multiple) Regression | 単(重)回帰 | |
| Linear Contrast | 線形対比 | |
| Nominal | 名義 (公称) | |
| Concatenate | 連結 | |
| Fishers exact method | フィッシャーの直接法 | |
| Event | イベント (事象) | |
| Moving Average | 移動平均 | |
| Trend Analysis | トレンド(傾向変動)分析 | |
| Predictor | 予測変数 | |
| Crossover Design | クロスオーバーデザイン (交差法) |
これらの用語には英和辞典には見当たらないので要注意である。さらに厄介なことに分野に特有な統計用語も存在する。たとえば,臨床医学でよく使用される用語があり,品質管理でよく使用される用語があるのである。これらについては次回お伝えしたい。