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昨年2001年は、再び半導体業界の歴史に刻まれる年となってしまいました。半導体業界全体としての統計が世界的規模で正式に取り始められた1970年から遡って、最悪の年、つまり対前年比で2001年は、何と32%マイナスという惨憺たる結果に終わったのでした。半導体業界では、4年から5年おきに訪れる"シリコン・サイクル"と呼ばれる大きな不況の谷間がきまってあるものの、通常2桁の成長率が今までは、ほぼ約束されていたものでした。(ちなみに2000年は、過去最高の36%という前年比成長率で、最良の年として半導体の歴史に記される年でした。) それでは、2002年は、どうなるかというと、半導体業界専門の市場調査機関によると2〜3%程度の成長だろうということです。今年は悲観的な見方がもうすでに年初から始まっているといえます。
このような好不況の循環が激しく訪れる業界にあっては、当然のことながら、半導体関係の翻訳に携わる翻訳者や翻訳会社も少なからず、ビジネスの影響を受けるわけです。私自身も翻訳者として、そして自分の翻訳会社を立ち上げてからというもの、ほぼ一貫して、半導体業界に関する翻訳を中心に仕事をしてきました。かつて、オレゴン州にある日本の半導体メーカーの子会社で技術の仕事に8年余り従事していた関係から、半導体業界には昔からの知己が数多くいます。半導体メーカーでの技術者の仕事をやめて独立した当初はそういった業界の知己から翻訳の仕事をお裾分けしてもらい、何とか会社経営の舵取りを始めたものでした。最近は、さすがに昔の知己に頭を下げて仕事のおねだりをしなくても、どういうわけか仕事が自然に入ってくるようになってきました。昨年は、私にとっても、会社にとっても大変厳しい年であったことに間違いありませんが、半導体の仕事でさえも量的に前年以上こなすことができたのではないかと思っています。
半導体業界は、いま大変困難な時代を迎えているのは事実ですが、それでも翻訳のニーズというものは、決してなくなることはないでしょうし、むしろ、今後とも翻訳者にとってはかなり有望な業界であり続けるものではないかと考えています。そのように考える理由として3つの根拠を申し上げますと、まず初めに、この業界は、常に技術革新が起こり、新しいテクノロジーが次々と湧き上がっているということ、ニ番目に、ビジネスとして大変大きな広がりがすでにあり、技術とその技術を使った製品が流通するグローバルなインフラがかなりしっかりと整備されていること、最後に、専門用語の統一や翻訳マニュアルの品質向上、ソフトウエアやホームページの2ヶ国語化などはまだまだ緒についたところであって、今後の翻訳者の貢献がきわめて重要となる分野が広範囲にわたって存在することなどがあげられるでしょう。
関連産業の裾野がきわめて広い半導体の中で、翻訳者にとって最も重要なことは、半導体の製造プロセスを全体的に理解していることではないかと常日頃感じています。半導体の大規模集積回路(LSI:Large Scale Integrated Circuit)が珪素(Si:シリコン)という地球上では酸素についで2番目に多い元素から、高純度シリコン(純度99.999999999%;イレブンナイン)まで蒸留精製された多結晶シリコン(ポリシリコン)からシリコン単結晶を成長させ、ウエーハに加工し(鏡面加工)、その表面にフォトマスクを通してマスクパターンを転写し(フォトリソグラフィ)、パターンの現像工程を経てウエーハ上に回路が出来上がります。検査(プローブ検査)を経て、ウエーハがひとつひとつのICチップに切り取られます(ダイシング)。ここからICチップの組立工程が始まり、ICチップがパッケージに入れられて、ICの検査とテストが繰り返されて最終的にICを実装するコンピュータメーカー、家電メーカーや通信機器メーカーなどのエンドユーザーに出荷されます。この連続的な、どちらかというと気の遠くなるような半導体製造工程の流れ(恐らく、川下から川上までの全工程数は、700〜800ほどあるものと思われる)を大まかでよいので理解しておくことが、とりもなおさず、半導体関係の翻訳に従事する翻訳者にとって、最も重要な項目であると思います。とてもこの紙面を借りて、これら工程の詳細を述べることはできませんので、ATA/JLDの年次総会ならびにIJETの場をお借りして、半導体工程理解のためのプレゼンテーションを継続して提供していきたいという個人的な抱負を抱いております。半導体工程に関心をお持ちの方は、ぜひそのときに私の行うプレゼンを聴きに来ていただければ幸甚です。
翻訳の実際のニーズで最も量的に大きなエンドユーザーは、実は半導体メーカーではなく、半導体製造装置メーカーです。これは、なぜかというと、複雑きわまりない半導体製造装置のマニュアル作成で翻訳のニーズが生じるためであります。日本の半導体メーカーの撤退や縮小が昨年来相次いでいますが、逆に日本の半導体製造装置メーカーは、厳しい時代ながらも次世代半導体製造技術の研究開発に余念がありません。また、最近の中国への怒涛のような製造業のシフトで、再び日本の製造業の空洞化が懸念されていますが、こと、この半導体製造装置産業に関していえば、日本で将来的にも残り続けるだけの高い技術力と競争力を持った数少ない産業分野ではないかと思います。日本からの半導体製造装置は、アメリカでも大変高い評価を得ており、インテル社といえども、日本の半導体製造装置なしには、最先端MPU(線幅0.13ミクロン)の製造をすることはまかりなりません。しかし、ここに日本メーカーの持っているひとつの弱みがあります。それは、装置についてくるマニュアルが貧弱で、見劣りがする、いざというときに理解しづらいなどの耳の痛い指摘がアメリカのエンドユーザーから頻繁に寄せられています。
今年、弊社は、東京にある半導体製造装置マニュアル作成専門会社との業務提携を行い、アメリカのユーザーの視点に立ったマニュアルの翻訳ならび作成を開始します。明瞭で簡潔な英語で書かれ、多くのイラストやグラフィックなども登用した視覚に訴える、高品質なマニュアル作成が今年の新しい目標です。マニュアルの翻訳と作成を通して、日米の半導体業界にさらに貢献していくことができたらと願ってやみません。多くの日英翻訳者に半導体業界でますます活躍していただきたいと思っています。
This article originally appeared in the JLD Times, the official newsletter of the Japanese Language Division of the American Translators Association. Recent issues of the JLD Times and other useful resources are available on the division's website.
Ken Sakai is co-founder and president of Pacific Dreams, Inc., a Japanese translation and business consulting firm with offices located in Salem and Hillsboro, Oregon. Prior to dedicating himself full-time to establishing his own company, he worked for Mitsubishi Silicon America for over eight years in engineering, project management and procurement. He has given several presentations about the basics of the semiconductor industry and manufacturing process. He has been a speaker at the ATA conference for the past two years, and was a guest speaker for the 2001 IJET (International Japanese/English Translation) Conference. He can be reached at KenFSakai@aol.com.