![]() |
JAT Bulletin 167, February 1999
先日、JAT-LISTで質問したカタカナ語「エンプロイアビリティー」に ついての調査結果をご報告します。
1.「エンプロイアビリティー」発見!
この言葉を最初に見たのは次の新聞記事です。
****
1月19日 日経新聞夕刊
「エンプロイアビリティー」
前労働事務次官 松原亘子(まつばらのぶこ?)
ある方に勧められて映画「学校III」をみた…<以下、この映画と、 変革期にある日本の雇用システムについての説明>
昨今、国の内外でエンプロイアビリティーの重要性がいわれる。ど ういう意味で使われているか、外資系企業の人事担当者の方と話す 機会があったが、その会社では、本人の努力と企業の支援によって、 他の企業からスカウトされるくらいの能力を身につけることを意味 するとか。一般には、雇用可能性と訳されているが、むしろ、ある 新聞に使われていた訳語「市場価値」の方がぴったりするのかもし れない。… この基礎的能力の高い人々が、構造改革期である今、 どう新しい知識、技能、技術を身につけ、エンプロイアビリティー を高めていったらいいのか、官民の協力によって、それを示す道標 を明確にすることが急がれる。
****
「国の内外で重要性がいわれる」そうですが、私には初耳でした ので、JAT-LISTで問いかけをするとともに、調べてみました。
2.原語調査
Employability のGooでの検索結果は、15791 hitsでした(1月末現在)。 ことばの意味については次のような説明がありました。
What do we mean by employability? Actually, it's two words in
one: Employability = employ + ability
Literally, that is the ability to be employed -- potentially in
lots of different jobs and workplaces.
前述の新聞記事の説明と、ほぼ同じようです。
OEDを調べて下さった柏原さんによると、少なくともイギリスでは 1920年代にこの単語は使われていたとのこと。
[f. employab(le a. + -ility.]
The character or quality of being employable.
1926 A. M. Carr-Saunders Eugenics vii. 157 Categories (a) and (b) of
employability account for 89.4 per cent of the men and 88.2 per cent
of the women.
1927 Daily Tel. 28 June 7/2 The scheme..is for the purpose of so improving the general employability of young unskilled men.
1959 B. Wootton Social Sci. & Social Path. vii. 223 Even the test of employability or of working efficiency does not serve to distinguish the sick from the sound.
しかし、Gooの検索結果をみると、ウェブサイトへの登録日は圧倒的に 昨年のものが多く、確かに「昨今…重要性がいわれる」ようになった ことがわかります。カナダのStudent Centre のサイトには次のような 説明がありました。
Long term work with the same organization is mostly a thing of the past. Change is Constant:the new "world of work" is different. That means some new ways are needed for preparing for those changes. And that's where employability skills come in.
「終身雇用をはじめとする伝統的な雇用制度の崩壊」がいわれるのは、 日本だけではないようです。
3.カタカナ語調査
次にカタカナ語の「エンプロイアビリティー」をGooで検索したところ、 1月末で18件ありました。まだ、お役所、経済界、マスコミ一部での使用に とどまっていることがわかりました。どのような文脈で使われているか、 一部をピックアップしてみます。
「朝日新聞98年4月29日付朝刊の経済キーワード」
昨年ごろからアメリカや日本では「エンプロイアビリティ」(雇われる能
力)という言葉が使われるようになった。これがなければ、転職も
できない時代、というわけだ。
「日経ビジネス厳選 最新経営キーワード50」
人材流動化時代の人事戦略 ― エンプロイアビリティ(雇用能力)
「経済企画庁第1回経済審議会・企画部会議事概要」、「国民生活審議会」
(説明なしにカタカナでそのまま使われている。やっぱ、お役所
にはカタカナ語が氾濫している?)
「経済同友会」
個々人のエンプロイアビリティ向上努力は欠かせない
「日本商工会議所」(平成11年度税制改正に関する要望のなかで)
個人が雇用可能性(エンプロイアビリティ)を高めるために
自主的に「能力開発」を行い、それを活かす職に就いた場合、過年
度に支出した一定の金額を就職後の所得から控除する制度を創設して
ほしい。
「労働省平成10年版労働経済の分析」
外部労働市場で通用し企業に雇用されることを可能にする職業能力
(エンプロイアビリティ)を磨くことが必要となってくる
「労働省 雇用審議会総会 議事録」
イギリスを代表してスミスという雇用教育訓練担当の大臣が、エンプロイア
ビリティの説明にあたりまして、「柔軟性があり、社会的責任を自覚
した若者を育成する。これがエンプロイアビリティの中で一番大事
である。あるいは、自動車の作り方を学習する方法を教えること、
作り方そのものではなくて、学習する方法を教えることが大事であ
る」というようなことを発言しており、かなり各国代表の共感を得
ているような気がいたしました。
プレジデント誌のオンライン連載「人と会社と幸せな関係―高橋俊介」
第3話 エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティ
エンプロイアビリティ(employability)というのは、終身雇用、
年功序列から、実力主義の世の中に変わったときの雇用における
キーワードです。アメリカで広まっている考え方で、日本でも最近、
聞 くようになってきました。端的にいうと「自分が雇われる価値」の
ことです。…
(一方、)企業に求められる重要な要素が、エンプロイメンタビリティ
(employmentability)です。端的にいうと「雇用主としての魅力」です。
****
3.「エンプロイアビリティ」はどこまで普及するか?
JAT-LISTでの問いかけにも、「とにかく長い、言いにくい。」「エンプロ能力とか、 カタカナ4文字にしないと普及しないのでは?」、「いずれ、就業可能性、市場性 (労働市場の)、就業能力、就業チャンスなどと言い換えられる?」、「エンプロ、 エンイヤ、エンビリ、エンティーなどが考えられるが、実際のusageでは、 『エンプロ性』または『「エンプロ能力』のように「性」または「能力」の ような語を補わないと、英語のニュアンスが出ない」などの意見が出ました。
たしかに「キャリア・アップ」、「キャリアプランの実現」、「キャリアメイキング 」、 「雇用・能力開発」、「人材育成」、「人材高度化」などの言い方にも、 「エンプロイアビリティ」と意味が重なる部分があるように思います。
「使い続けられて、『アカウンタビリティ(説明責任)』や『フィージビリティ (実行可能性)』程度の頻度で使われるようになるか、それとも日本語で 様々に使い分けられて消えていくか?」、これからしばらく役所やマスコミの 動きを追ってみたいと思います。今年の後半に続報として、「どうなった、 エンプロイアビリティ?」をお送りする予定です。
PS
子供に、「エンプロイアビリティって言える?」と聞いたら、
「えっ、今なんて言った? フロリダ・ベイビー?」と聞き返されました。
(フロリダ・ベイビーじゃ、映画か歌のタイトルみたいですね。)
言いにくいだけでなくて、聞き取りにくい言葉でもあるようです。
The Japan Association of Translators (JAT) is a nonprofit association dedicated to serving the interests of individual translators. Unless otherwise stated, opinions expressed in JAT Bulletin articles are solely those of individual contributors and do not necessarily reflect the views of the Japan Association of Translators.
© 1999 Japan Association of Translators, All rights reserved, including those of republishing in any media, including but not limited to printed and electronic media. Individual authors of articles in the Bulletin retain copyright to their articles, permitting them to use the articles as they see fit, including granting permission for reprinting in other media.