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この講演でもっとも得ることの多いと思われる人は、フリーランス翻訳者で経験5年以下の人、これからフリーランス翻訳者をめざす人、と事前のアナウンスで明示していたため、聴衆の多くは若手翻訳者でした。
フリーランス翻訳者の3つの顔
・ 翻訳者(翻訳スキルを持つ人)
・ 小規模事務所経営者
・
営業担当者
一般に誤解さらえていることは、フリーランス翻訳者は、翻訳スキルがあればなれるというものです。しかし、翻訳スキルのほかに、電話対応、経費管理、顧客営業、売り込みというスキルが必要です。
フリーランス翻訳者に向く人と向かない人
フリーランス翻訳者になるには、翻訳スキルの面で次の要素が必要です。
T-1. 翻訳能力は十分か
T-2.
得意な分野を持っているか
T-3. 解らないことを短時間で調べることができるか
次に営業と業務管理の面で次の要素が必要です。
B-1. 事務機器はそろえられるか
B-2. 開店時間中に必ず連絡が可能か
B-3.
不安定な仕事量と収入に耐えられるか
特に、熟年者(会社の定年退職直前の人)がフリーランス翻訳者になるために重要な点は、次の3つです。
E-1.
記憶力と学習能力の低下を抑える
E-2. 幼稚な行動を控える
E-3. 過去の地位や肩書き(例えば、部長)で、他者に接してはならない
事例:Aさんからの質問
私はビジネス専門学校を卒業後、X社で輸入業務を10年経験しました。経営、品質管理を得意としています。TOEICは960点です。今は派遣社員として、Y社で通訳翻訳を担当し3年になります。これまでに自営業の経験はありません。私はフリーの翻訳者になれるでしょうか。
講演者の意見:B-1、B-2、B-3をクリアできればすぐにフリーランスになることができます。仕事をとれるかどうか不安になることでしょうが、それは、本人がしっかりと営業活動や売り込み活動をするかしないかにかかっています。
事例:Cさんからの質問
私は大学で国際経済を専攻し、その後商社に就職し輸出に携わり35年になります。ほとんど毎日英語に接しています。
3年間イギリスへの駐在の経験もあります。来年退職する予定で、退職後はフリーで翻訳をやろうと思います。直ぐにフリーランス翻訳者として稼げるようになるでしょうか。
講演者の意見:T-1、T-2、T-3、B-1、E-1、E-2、E-3をクリアできれば、フリーランスになることは可能です。会社員を続けてきて(自営業経験なし)、60歳前後で退職する人が、その後翻訳で成功できるかできないかは、謙虚になれるかどうかにかかっています。
営業と受注管理
既存顧客に満足せず常に営業をし続ける必要があります。常に新規翻訳会社のトライアルを受け続けます。何らかのきっかけで紹介してもらった客先に営業的な打診します。取引先(引き合い)の資源を増やして、引き合いが増えれば、仕事を選ぶ主導権を自分が握ることができます。不良顧客の仕事を堂々と断ることができる。
事例:Aさんからの質問
フリーになったばかりです。先日N社のトライアルを受けました。幸い合格して登録することができました。しかし、いくら待っても仕事の依頼がきません。何か無視されたみたいで不愉快です。どうすればいいでしょうか。
講演者の意見:トライアルに受かったから仕事がくるとは限りません。「トライアル合格=仕事をもらえる」と思っているとしたら、完全な自分勝手な思い込みですので、考えを改めるべきです。
1社や2社のトライアルに合格(または不合格)したからといって、一喜一憂しないようにしましょう。年単位のスパンで20社、30社に売り込み計画をたてましょう。
英和翻訳の単価は暴落状態
翻訳会社対個人翻訳者の単価の一例(1枚)
(英語200ワードまたは日本語400文字を1枚とする)
・ EJマニュアル:
800円~1200円
・ EJ一般文書、契約書: 1200円~2000円
年間400万円の売り上げを確保しようとすると、4,000枚程度の翻訳量が必要です。年間250日翻訳にあてるとすると、1日平均で16枚訳さなければならない。収入を上げるには、さらに多く訳すか、何らかの工夫で単価の高い仕事を獲得することになります。
低単価大量翻訳を請けるのは危険!
低単価の仕事では、何らかの問題が発生したときに、その問題を吸収できるだけの、予算的余裕度がない。そのため、発注者受注者の間で、紳士的に協議できる余裕もない(お金を巡っての喧嘩に発展しかねない)。また、低単価プロジェクトに取り組んでいる間に、高い単価の引き合いがあったら、それを断らなければならない。
事例:低単価大量案件を請けたために大損した例
英文和訳、200枚、単価800円(合計160,000円)、納期15日
Yさんは、この仕事を終え予定どおり納品した。その後、クライアントより、誤記や不適切な訳があったので、修正に時間を要したと言われた。クライアントは、その要した手間をYさんに負担してもらいたいと主張し、代金を120,000円に減額すると、一方的に連絡してきた。このプロジェクトに取り組んでいる間に、1枚2000円の引き合いがあったが、Yさんは泣く泣く断っていた。
講演者の意見:低単価の仕事を大量に請けるのは大変危険です。この場合、次の条件のすべてを満たさなければ、請けない方がよいと思います。
・
余裕のある納期(予定作業時間の1.5倍以上)
・ 訳質は並レベルとし、最高の訳質は求められない
・
誤字脱字、訳抜け以外の修正要求は受け付けない
事例:Bさんからの質問
私はフリーになったばかりですが、トランスレーションメモリーソフトを所有していると、仕事が多く入ると聞きました。本当でしょうか。
講演者の意見:本当です。特にマニュアルの仕事が大量に入るようになります。ただし、購入前に、以下の点を留意し、総合的に損益を考えてから導入するべきです。
顧客の格付け
顧客には次の3種類がある。
・取引したい顧客
単価が高い顧客、取引手順がしっかりしている顧客、発注書と支払い通知を出す顧客、約束どおり支払う顧客
・取引してもしなくともよい顧客
単価が安い顧客、取引手順がずさんな顧客、高い質を要求する顧客、支払いが遅い顧客、キャンセルが多い顧客
・取引したくない顧客(仕事を請けない)
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問題顧客
単価が極端に安い顧客、安い単価で取引手順がずさんな顧客、安い単価で高い質を要求する顧客、支払いが遅いか約束どおりに支払わない顧客、翻訳の発注に他の作業を抱き合わせて要求する顧客、担当者や社長がいつも留守の顧客
問題顧客にしばしばみられる特徴
次の点は顧客と問題になりやすいので必ず事前に確認しよう!
・「です・ます」調か「である」調か
事前に指定を受けず、後から修正要求を受けも困る
・字数計算の方法
クライアントの中には、半角英数字をカウントから除外するところがある
・繰り返し文や類似文の処理
クライアントの中には、繰り返し文は、翻訳者がタダ働きして訳すものであると考えているところがある。
・図や表の中の言葉も翻訳が必要か
事例:問題のあるクライアントがとる手法
クライアントの支払条件は、月末締め翌月末払い。翻訳者は納品直後に請求書を郵送した。その後支払予定日になっても支払いがなかった。そのため、クライアントの経理担当に電話で確認したところ、請求書が到着していなかったので、支払いができなかったと説明した。会社の処理上、また今郵送してもらっても、支払いは月末になると通知した。
講演者の意見:翻訳者がとる選択肢
・請求書といっしょに「請求書受領確認書」も同封して郵送する。請求書受領確認書は、クライアントより返送またはファクスしてもらう。
・請求書を配達証明付き郵便で郵送する。
・頻繁にこのような事態が発生し、改善を申し入れても改善されない場合、このクライアントとの取引の停止を検討する。
代金回収のノウハウ
相手が代金の支払いを怠っていることを認めている、遅れているが全額払おうという意志を持っている。 →
こういう客はまだ許せる!
相手が様々の口実をつけて代金の支払いを遅らせようとしている、あるいは値切ろうとしている。→
こういう客は許さん!
支払いの悪いクライアントからの回収努力の例
会社登記簿で社長の自宅を調べて集金に訪問する。
→
相手は自宅に帰っても心が安まることはない
相手に内容証明郵便を送る
→
裁判で提訴する用意があるという意思表示
相手を裁判で訴える
→ 最終的手段
代金回収のための裁判制度の活用
「調停」と「請負代金訴訟」がある。
調停のメリット
・話しあいをする(喧嘩でなく)ので、精神的なストレスは少ない
・解決後、両者は場合により良好な取引関係を戻すことができる
調停のデメリット
・相手方の住所を管轄する裁判所に申し出る
→ 相手方に有利、自方に不利
請負代金訴訟のメリット
・相手は精神的プレッシャーと金銭的出費を伴う
→
弁護士顧問料、答弁書作成、出廷に伴う時間ロス
・債務の履行地(訴える側)の住所を管轄する裁判所に申し出る
→
自方に有利、相手方に不利
請負代金訴訟のデメリット
・紛争(喧嘩)なので、精神的なストレスが大きい
・解決しても、両者は良好な取引関係を戻すことはまずない
裁判制度を利用する際の注意(1)
ひとりで処理するか弁護士に依頼するか
すべてひとりで処理する
費用は印紙代と切手代だけで、ほぼ1万円以内で済む
司法書司に訴状の代書を依頼する
費用は1~2万円(代書と若干のアドバイスを受けられる)
→ 請求額30万以上なら依頼できそうである
弁護士に依頼する
費用は、着手料10万円+裁判出廷料3万円+成功報酬10%
→ 請求額が100万以上なら依頼できそうである
→
弁護士さんも額が小さい訴訟や勝ち目のない訴訟は引き受けたがらない
裁判制度を利用する際の注意(2)
スパイ対策をせよ!
世の中には、他人の不幸を喜ぶ者が存在する!
他人のあげ足をとることで、自身の手柄だと喜ぶ小心者が存在する!裁判制度を利用すると決めたら、確実に信用できる者以外にその事を絶対に話してはならない。例えばZ社を訴えようと計画したとする。その情報がよそ者に漏れて、Z社から仕事を請けている同業翻訳者の耳に入る可能性がある。その翻訳者は、スパイ行為を行うことがある。Z社からの歓心を買うために、「XXX氏が貴社を訴える準備をしているみたいです」とZ社に密告する。密告者は、たいていはヒマな人間とか、実力勝負ができない者や、他人の歓心を買うためならなんでもするというような者である。