Updated 2006-05-17
無生物主語構文と因果構文
富井 篤

定刻2時、数分遅れて開始しました。

 

第一部として「無生物主語構文」、そして第二部として「因果構文」を、途中、休憩を挟みながらお話をしました。

 

第一部 無生物主語構文

 

ここで取り上げた「無生物主語構文」というのは、私が35年前から研究してきたもので、「もの」ではなく「こと」―――「何々がどうであること」、「何々が何々すること」、「何々を何々すること」などーーーを主語にした英語独特の構文で、日本語にはなく英語にだけ発達している構文です。そのため、英日翻訳はもちろんのこと、日英翻訳においても極めて重要な構文です。とくに、英日翻訳においては、この構文を上手に処理すると、翻訳臭のない自然な日本語に訳すことができ、また、日英翻訳においては、この構文を上手に活用すると、極めて簡潔な英語に訳すことができます。この講演では、英和翻訳の際、二つのステップを使って「無生物主語構文」を自然な日本語に訳すテクニックを示し、ついで、このステップを逆に使って、和英翻訳の際、「無生物主語構文」を使った簡潔な英語に訳す手法を紹介しました。

 

数多くある無生物主語のパターンを、ここですべて述べることもできませんので、ここでは、代表的な次の三つのパターンについて簡単に記します。

(1)    形容詞+名詞パターン

(2)    名詞(自動詞から)+名詞パターン

(3)    名詞(他動詞から)+名詞パターン

 

そもそも無生物主語構文は、「因果関係」を表す時に使われる構文で、日本語のように、「原因」と「結果」をそれぞれ節や文で書くのではなく、「原因」を主語に、「結果」を述部に据え、一つの文章で「因果関係」を表してしまう構文です。代表的な三つのパターンに入る前に、それぞれのパターンに共通した和訳手法を紹介します。

 

それには二つのステップがあります。一つは「主語」の処理であり、もう一つは「述部」の処理です。

第一ステップ:      英語では主語である「語」や「句」(すなわち、「何々の何々」)を日本語では「節」(すなわち、「何々がどのようだと」、「何々がどうすると」、「何々をどうすると」など)にします。

第二ステップ:      英語では「述部」となっている「他動詞+目的語」(すなわち、「何々をどうさせる」)を日本語では「主語+自動詞」(すなわち、「何々はどうする」)にします。

 

(1)    形容詞+名詞パターン

 

これは、主語に「形容詞+名詞」がきている構文です。

第一ステップは主語の処理です。英語の「どのような何々は」という主語を、日本語では「何々がどのようだと」(「原因」を表している場合)とか「何々がどのようなので」(「理由」を表している場合)などと訳します。

第二ステップは述部の処理です。英語の「何々をどうさせる」を、日本語では「何々はどうする」と訳します。実例でみてみましょう。

Higher operating temperatures shorten the lubricant life.

この英文を直訳すると、「より高い作動温度は、潤滑剤の寿命を短くする」となります。これでは翻訳臭があり、何故かしっくりした訳とはいえません。それには理由がありますが、それについては、ここでは触れません。

そこで、上に述べたステップを踏んで訳していくと、「主語」は第一ステップにより、「作動温度が高いと」となり、「述部」は第二ステップにより、「潤滑剤の寿命は短くなる」となります。すなわち、「より高い作動温度は、潤滑剤の寿命を短くする」という直訳調の日本語が「作動温度が高いと、潤滑剤の寿命は短くなる」となります。これが、いわゆる、「言葉の置き換え」翻訳ではなく「意味の置き換え」翻訳というものです。

 

(2)   名詞(自動詞から)+名詞パターン

 

つぎは、主語に「名詞+名詞」がきている構文です。この場合、最初の「名詞」は「自動詞から転じてきたと考えられる名詞」です。早速、実例をみてみましょう。

The rotation of the drum causes the water to flow out of the outlet opening.

主語は、「自動詞から転じてきた名詞、rotation」+「普通名詞、drum」です。このrotationを「自動詞、rotate」に戻します。

注1:  もちろんrotateには、「回転させる」という「他動詞」もあります。しかし、このように使われている場合は、もとの動詞は「自動詞」であると考えます。今回は触れませんが、他動詞として使われている場合は、無生物主語構文における主語としては、Rotatingという形で現れます。

まず「主語」は、第一ステップにより、「ドラムの回転」を「ドラムが回転すると」とします。第二ステップは「述部」の処理ですから、「水出口から流出せしめる」を「水出口から流出する」とします。そうすると、「ドラムの回転は、水を出口から流出せしめる」という英語から飛び出してきたような日本語が、「ドラムが回転すると、水は出口から流出する」という自然な日本語になります。

2  causeという動詞は、技術文に頻出する、とても重要で、かつ厄介な動詞です。その訳し方も、主語が普通名詞か無生物主語か、パターンがcause +目的語、cause +目的語+to不定詞、cause +目的語+(他動詞の)to不定詞+目的語か、などにより違ってきます。ここでは詳しく触れることができませんので、いずれかの機会に譲りたいと思います。

 

(3)    名詞(他動詞から)+名詞パターン

 

三つ目も、「名詞+名詞パターン」です。しかし、この場合、最初の「名詞」は「他動詞から転じてきたと考えられる名詞」です。これも、実例をみてみましょう。

The use of pressure-tight solenoids allows a low-cost valve design.

「主語」は、「他動詞から転じてきた名詞、use」+「普通名詞、solenoids」です。このuseを「他動詞、use」として使います。

まず第一ステップにより、「耐圧ソレノイドの使用」を「耐圧ソレノイドを使用すると」とします。第二ステップは述部の処理ですから、「低価格のバルブ設計を可能にしている」を「バルブを低価格で設計できる」とか、「低価格のバルブが設計できる」とか、「低価格のバルブ設計が可能である」などとします。そうすると、「耐圧ソレノイドの使用は、低価格のバルブ設計を可能にしている」という直訳調の日本語が、「耐圧ソレノイドを使用すると、低価格のバルブが設計できる」という自然な日本語になります。

注1:  今、主語を、「理由」として処理しましたが、「原因」として処理すると、「耐圧ソレノイドを使用しているので」となります。「理由」か「原因」かということは、文脈でしか分かりません。

2  allowという動詞も、技術文に頻出する動詞で、辞書に出ている訳語では、ほとんどの場合訳すことのできない、極めて大事な動詞です。

以上、典型的な「無生物主語構文」を説明してきましたが、まだまだ、いろいろなパターンがあり、「擬似無生物主語構文」まで入れると、大きく分けて14のパターンがあります。さらに、否定詞を含んだ「無生物主語構文」まで含めると25のパターンがあります。

 

第二部 因果構文

 

「風邪が吹くと桶屋が儲かる」という話があります。すなわち、「風が吹くと埃が舞う。埃が舞うと人間の目に埃が入る。→ 途中省略 → 猫がいなくなると鼠が増える。鼠が増えると桶がかじられる。桶がかじられると桶屋が儲かる」というもので、10個くらいの因果関係から構成されています。

 

これほどではありませんが、技術文というものは、いくつもの因果構文のつながりといっても過言ではありません。そこで、第一部で述べた「無生物主語構文」も含め、因果関係の表現を総動員して、たくさんある因果関係を一つの文章で表したり、複数の文章で表したり、いろいろ考察を加えてみました。

 

まず、因果関係の表現を次の三つに大別しました。

(1)    最初の因果関係(当然、文頭に来る。下のチャートでは□―○で表示

(2)    二つ目以降の因果関係(そのうち、文中に来るもの。下のチャートでは□―○で表示

(3)    二つ目以降の因果関係(そのうち、文頭に来るもの。下のチャートでは□―○で表示

ここで、□は「原因」を、○は「結果」を表しています。

 

ついで、これらの因果関係が、実際の技術文ではどのように組み合わされているかをチャートに表してみました。下のチャートは、その組み合わせを表すもので、縦の欄が「因果関係の数」、横の欄が「文章の数」です。(注:3個の因果関係を2個の文章で表示する場合には、どこで文章をきるかにより2種類の組み合わせがあることを示しています) 4個以上の「因果関係の数」、3個以上の「文章の数」は、すべて、この考え方が適用されます。

Table showing text correspondences


ついで、上記(1)(2)(3)に対する英語の表現法を考えてみました。ここでは詳細の説明は避けますが、おもな表現方法として次のものがあります。

(1)    最初の因果関係(当然、文頭に来る)

      When (If) S + V ….., s + v …..

      無生物主語構文

(2)    二つ目以降の因果関係(そのうち、文中に来るもの)

      to不定詞(「結果」を表す「副詞的用法」)

      which パターンの因果構文

      ing パターンの因果構文

(3)    二つ目以降の因果関係(そのうち、文頭に来るもの)

      This パターン

      As a result、他

 

そこで、4個の因果関係を内包している技術文(下掲)を俎上に乗せ、いろいろな因果関係の表現を使って、「技術翻訳」というよりも「プレー」ないしは「ゲーム」感覚で英語を組み立ててみました。

 

入力が増加すると、ダイアフラムは下方に動かされ、ブリード・バルブを開く。それにより、ダイアフラム室の空気は大気に流出し、ダイアフラムは、上方に動く。

 

この例文は、明らかなように4個の因果関係から成り立っています。本来であれば、(3)

も駆使して、2個の文章や3個の文章で書いてみるのも面白いのですが、そうすると、あまりにもバリエーションの数が多くなってしまいますので、(1)と、(2)だけを使って、考えられうるすべての組み合わせに挑戦してみました。もちろんこれは単なる考えられうる組み合わせですので、実際の文章としては、滅多に使わないものもあれば、不適切なものもあります。そのあたりは。目を瞑ってください。(注:一つ目の因果関係は、すべて、(1)を使っています)

 

1       When the input increases, the diaphragm is moved downwards to open the bleed valve, which allows the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere, causing the diaphragm to move back upwards.

2       When the input increases, the diaphragm is moved downwards to open the bleed valve, allowing  the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere, which causes  the diaphragm to move back upwards.

文章1および2は、二つ目の因果関係はともにを使い、三つ目の因果関係と四つ目の因果関係が逆になっています。

3       When the input increases, the diaphragm is moved downwards, which opens the bleed valve to allow the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere, causing the diaphragm to move back upwards.

4       When the input increases, the diaphragm is moved downwards, which opens the bleed valve, allowing the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere to cause the diaphragm to move back upwards.

文章3および4は、二つ目の因果関係はともにを使い、三つ目の因果関係と四つ目の因果関係が逆になっています。

5       When the input increases, the diaphragm is moved downwards, opening the bleed valve to allow the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere, which causes the diaphragm to move back upwards.

6       When the input increases, the diaphragm is moved downwards, opening the bleed valve, which allows the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere to cause the diaphragm to move back upwards.

文章5および6は、二つ目の因果関係はともにを使い、三つ目の因果関係と四つ目の因果関係が逆になっています。

 

さらに、(3)もちりばめて書くと、下のようになるのですが、組み合わせの数がやたらに多くなりすぎますので、この試みはやめました。

 

1’      When the input increases, the diaphragm is moved downwards to open the bleed valve. This allows the air in the diaphragm chamber to flow out to atmosphere, causing the diaphragm to move back upwards.

1”      When the input increases, the diaphragm is moved downwards to open the bleed valve. As a result, the air in the diaphragm chamber is allowed to flow out to atmosphere, causing the diaphragm to move back upwards.

 

その他、(1)因果構文は事象・物象の発生順に訳すこと、(2)文頭の因果関係を忠実に表現すること、(3)やたらにandでつなげないこと、(4)の表現は乱用しないこと、(5)一つの文章では最大4個の因果関係に留めること、しかし、過度のぶつ切りは避けること、などの補足説明の後、質疑応答も含めて定刻5時に終わり、二次会に繰り出しました。

 

以上

 

富井 篤