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Updated 2004-06-22
カナダの公認翻訳者たちとその資格
by 広瀬二樹(ひろせ にき)

アメリカのAmerican Translators Association をご存知の方は多いと思いますが、そのカナダ版にあたるのが、Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)です。1970年に創立。カナダで翻訳者、通訳者、術語専門士に公認資格を与える権限をもっており、International Federation of Translators (FIT) の提携機関です。

ご存知のように、カナダでは英・フランス語両語が公用語です。そのため、CTTICの有資格者はフランス語⇔英語のプロフェッショナルが過半数を占めています。英⇔フランス語で公認資格を得ている翻訳者のリストを覗いてみると、専門・得意分野も文芸、アートから金融、エンジニアリング、そして「梱包」などという細かい分野まで、実にさまざまです。

公用語が2つあり、また世界で一番マルチカルチャーとされる国だけあって、バイリンガルの人―必ずしも英・フランス語ではなく、英語と自国語または親の言葉、という人―が多いために、翻訳の作業内容に対する理解度や尊敬度、CTTICのような機関への認識度がカナダでは一般に高いと私は感じています。また、英⇔フランス語翻訳という巨大な市場でも、競争が苛烈なために価格が大きく下がっている、というようには見えません。統計はもっていませんが、プロの英⇔フランス語翻訳者、通訳者の暮らし向きはいいという印象さえ私はもっています(英⇔日翻訳市場の将来の方向性を示していると思いたいものです)。

カナダには、外国人の永住権資格の有無を学歴や職業スキルなどによって点数で判断するシステムがあり、最近まで職業によって点数が違ったのですが、翻訳者、通訳者は非常に難易度が高いとされるグループに属していました。高度なトレーニングを要する専門性の高い仕事だと認識されている、ということです。

さて、CTTICに所属する日本語の公認翻訳者の数ですが、2004年6月時点、英→日翻訳で数十人、日→英では数名です。このJATにもCTTICによる公認資格をもつ翻訳者が私を含め何人か登録されています。

公認資格の利点

翻訳者として公認資格があると、どんな利点があるのでしょうか?

まず、フランス語⇔英語などの翻訳者の場合は特に、雇用やプロジェクトの依頼の際、カナダの政府機関はCTTICの資格を重視します。企業も、特に大企業では条件にすることが多いようです。もちろん、フランス語、英語だけでなく、中国語やスペイン語など市場が比較的大きい言語では、CTTICの資格に対する認識度が高く、就職やプロジェクトの獲得に有利です。

知り合いの中国人やスペイン語人の公認翻訳者は、カナダ(時々はアメリカ)の企業からの依頼のほかに、永住権申請書類の翻訳が多いと話していました。公式書類には有資格者による翻訳が望ましいためです(1999年にドイツ人の夫がカナダへの移民を申請したときに、当時ボンにあったカナダ大使館から取り寄せた書類は、申請書類が英語かフランス語でない場合「certified translation」が必要である、という書き方でした。これが、CTTICやATAのような機関の有資格翻訳者による翻訳を指すのか、誰かが「certify」したものであればいいのか、があいまいですが有資格者による翻訳の方が安全なことは確かです)。

英、フランス、中国、スペイン各語のようなメジャーな言語グループの市場では、CTTICの資格に対する認識度は高いのですが、残念ながら、少なくともここオンタリオ州の日本人コミュニティーでは「公認資格なんてあるの?」という人が多いのが現状です。実際私も、「CTTICの有資格者」がキーとなって獲得したと思われる仕事に限っては、カナダの政府機関、他の言語で有資格翻訳者を雇ったことがあるカナダ企業、公の機関へ翻訳書類を提出する人からのものが圧倒的に多くなっています。在カナダ日本企業など、カナダの日本人コミュニティーでCTTICの資格への認識を広めるのは、これからの課題だと思っています。贅沢を言えば、日本の企業や出版社の間でも各国の公認翻訳者への認識が、カナダでの認識度と同じぐらい高くなればいいのに、と思っています。

公認資格を維持するには、もちろん年会費を支払いますが、私は翻訳者として、このメンバーシップには十分な価値があると思っています。

公認資格を取得するには

さて、カナダで公認翻訳者資格を得るにはどうすればいいのでしょうか?会議通訳者、法廷通訳者、術語専門士にはそれぞれのプロセスがありますが、この記事はJATのサイト用なので、公認翻訳者になるためのプロセスについて述べます。

公認資格の査定と授与は、CTTICの傘下にある各州の協会を通して行われます。以下は、CTTIC傘下のオンタリオ州の協会Association of Translators and Interpreters of Ontarioのホームページから得た情報です。

試験を受けて公認翻訳者になるには、まず、公認資格候補者(candidate for certification)として認められなければなりません。4年制大学で関係学位をとっていること、フルタイムで2年間翻訳をした経験があること、公認翻訳者の候補になり得ることの3条件のうちいずれかを満たしていることが必要です。

候補者が公認翻訳者の資格を得るにはふた通り方法があります。書類を提出する方法(certification on dossier)と、試験を受ける方法(certification by exam)です。

長年翻訳者としてキャリアを積んできた人であれば、書類を提出する方法がふさわしいかもしれません。試験を受ける代わりに、学位や経験を証明する書類を提出して資格を得るというものです。基準は以下の2点のうちいずれかを満たしていることです。1) フルタイムで5年の経験がある、2) 関連分野で優等学士号(honours or equivalent)を持っていて、フルタイムで2年の経験がある。前の上司や母校からの書類集めが面倒なのがネックです。

公認翻訳者を目指す多くの人が選ぶことが多くなるのは試験を受ける方でしょう。受験資格は、上記の公認資格候補者であることです。私は、この試験の問題づくりや準備コースの教材づくりなどに関わっています。

試験問題は英→日、日→英の双方向があり、一方だけ受けることも、両方受けることも可能です。もちろん、公認翻訳者として内容について宣誓することができるのは、試験に受かった方向のみ、つまり、英→日翻訳のみ資格をもっている人が、日本語→英語の書類を正式に認定することはできません。

文章量に対する試験時間はたっぷりあり、文章の内容も一般的なものです。専門知識は問われません。辞書の持ち込みも可能です。ただし採点は非常に厳しくなっています。採点は長期間公認資格を有している者などが2名で話し合いながら行いますが、一番の重要合格基準は、原文がきっちりと理解できていることと、ターゲット言語が正しく書けることです。たとえば原文理解エラー、ターゲット言語の文法エラーは致命傷で、日本語の助詞「は」と「が」、英語の冠詞「a」、「the」などの読み間違い、使い間違いが、不合格の原因となり得ます。この場合、たとえ創造的で美しい文章が書ける人でもパスしません。

一般に、ターゲット言語が自分のネイティブ言語でない場合よりチャレンジングだと言えます。

翻訳分野ですが、以上のように一般的な内容のものを訳す試験なので、一定の分野に強い人に有利というわけではありません。一定分野に強い人は、この試験にパスしたあとで、「専門分野認定プログラム(Specialization Recognition Program)」が用意されています。

他国のFIT提携機関など、CTTICが認めた機関から正式に認定を受けている翻訳者は、カナダの公認翻訳者の申請プロセスをリピートする必要はありません(もちろん、メンバーシップ料金は必要です)。

興味のある方はCTTICのホームページへ。各州の協会へのリンクも貼られています。

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